Amazonベストセラー『がん治療選択』の続編を綴る。
5月20日(木)
東大前のスタバに着いたのは、午後4時前のことだった。
店内は学生が多く、そのためかカウンター席が多い。数少ないテーブル席を確保して、パソコンを開いて今日のインタビューに備える。
取材相手は、東大病院のトップ、瀬戸泰之病院長。かつての、私の主治医である。
瀬戸先生と会うのは1年ぶりのことになる。東大病院からセカンドオピニオンの紹介状をもらって、転院したのは2020年のゴールデンウィークの頃だった。
おそらく、瀬戸先生は、私が転院した理由をご存知ない。なにせ、私がセカンドオピニオンに行こうとした時、「若いものに何か、不手際がありましたか?」と電話をしてきたくらいだから、彼自身の説明が不信感の根源であるとは思っていないだろう。
果たして、今日のインタビューでは、私に放射線治療という選択肢を示さなかったことを、どう説明するのだろうか?
外は雨が降っている。
道路では、水しぶきあげてクルマやタクシー、バスが行き交う。
店のドアが開き、木村カメラマンが入ってくる。2日前、柏のがんセンター東病院に続いて、今日の写真撮影も頼んでいる。木村さんの表情もいくぶん固くなっている。
「今日、どんな話になりますかね?」
木村さんが濡れた傘をたたみながら、席についた。
「まあ、瀬戸先生が激昂して、途中で打ち切りになるかもしれないので、インタビューが始まったらどんどん撮ってください」