Amazonベストセラー『がん治療選択』の続編を綴る。
5月18日(火)
午前10時30分、がんセンター東病院のエントランスホール。私はいつものようにドトールコーヒーにいたが、これまでにない緊張感があった。今日、がんセンターにいるのは、治療や検査のためではない。病院トップの大津敦院長にインタビューをする予定が組まれている。私は、テーブルの上にパソコンを開き、質問内容を何度も精査していた。周りの患者たちは、私のたたごとではない雰囲気を感じてか、チラチラと視線が向けられる。それに気づきながらも、私は取材前の準備を怠るわけにはいかない。パソコンをにらみながら、パチパチと修正点を打ち込んでいく。
そうしているうちに、カメラマンの木村肇さんがやってきた。少し、動きがぎこちない。
「遅れてすいません。ちょっと、ぎっくり腰になってしまいまして」
そう言って、すまなそうな表情を浮かべて、イスにゆっくりと腰をおろした。
「大丈夫ですか?」
「いや、昨日のことなんで、一晩寝たら、少し回復しました。撮影には問題ないです」
手には、大きな一眼レフカメラを持っている。私は、しばらく木村カメラマンの様子を見ていたが、どうやら痛みはそれほど強くなさそうだ。いや、そう振る舞っているだけかもしれないが。私は、ちらりとパソコンに表示された時間を見る。アポの時間の15分前だ。
「じゃあ、行きますか」
そう言って、席を立った。