現代の片隅

写真で語る「イタコのいる日常」(4)オシラサマ

文:篠原 匡

青森県南部地方のイタコは、口寄せや集落の悩み相談の他に、1月の小正月の時期に「オシラサマアソバセ」の儀式も担っていた。

 

(写真:Aya Watada、以下同)

 

オシラサマとは、青森県や岩手県、宮城県の県北部などで信仰されていた、男女一対の屋敷神のこと。桑の木の棒に「オセンダク」と呼ばれる布が何重にもかぶせられていて、頭巾をかぶった包頭型、頭が出ている貫頭型の2種類がある。

 

蚕の神様、馬の神様、目の神様など諸説あるが、青森県いたこ巫技伝承保存協会の江刺家均会長によれば、「何かを産み出す」神様で、祀っている家の職業によって役割が変化する。例えば、漁師の家のオシラサマであれば大漁祈願の神様であり、農家のオシラサマであれば五穀豊穣の神様になる。

 

 

オシラサマアソバセは、1月の小正月の時期に家々に祀られたオシラサマを出して遊ばせる、神様を「起こす」儀式だ。もともとは一族の長老の女性が祭主となり遊ばせていたが、江戸時代の末期からイタコが関わるようになった。

 

死者の口寄せと同じように、オシラサマアソバセの唱えごとがあり、先祖の魂を通して、それぞれの一年を占っていく。

 

 

現在、活動しているイタコの中でオシラサマアソバセを手がけるのは、最年少の松田広子(写真上)だけだ。その松田によれば、年に5件程度の依頼しかないという。家にオシラサマはあるが、どこに何を頼めばいいのかわからないという所有者が増えている。

 

 

「最後のイタコ」として知られる松田は口寄せがメインだったが、オシラサマアソバセの儀式を蘇らせるため、いたこ保存協会の江刺家会長(写真上)ととにに、オシラサマアソバセの復活に取り組んでいる。

 

 

【告知】

蛙企画は、イタコという地域の生活に根ざした習俗を記録し、広く伝えるため、中村タケさんを軸にしたイタコ写真集を出版します。

写真集では、タケさんによる実際の口寄せの記録やインタビューに加えて、イタコの歴史やイタコを成立させている日本人の霊魂観、科学とスピリチュアリティの関係、イタコの役割の一つである「オシラサマアソバセ」、恐山や川倉賽の河原地蔵尊などイタコが集まる「イタコマチ」についても論じます。

イタコという存在をフックに、日本人が無意識に持っている宗教観や信仰を浮き彫りにしたいと考えています。出版費用を集めるためのクラウドファンディングを3月26日から実施していますので、ご協力いただければ幸いです。

失われていくイタコ文化を後世に遺したい!写真集製作プロジェクト」(https://readyfor.jp/projects/90007

 

また、日本独自のアートカルチャーを発信するギャラリースペース、True Romance Art Projects(東京・渋谷)において、国際的なフォトグラファー、和多田アヤ氏によるイタコ写真展「Talking to The Dead」を開催します。ふるってご参加下さい。

 

「Talking to The Dead」

会期:4月2日(土) ー 4月17日(日)

開廊時間:11-19時

会場:東京都渋谷区神南1丁目20 - 7 川原ビル 4F

連絡先:@true_romance_art_projects