Amazonベストセラー『がん治療選択』の続編を綴る。
12月16日(水)
PET・CT検査のために柏の葉の三井ガーデンホテルに宿泊する。今回はホテルが混み合っていたため、喫煙フロアしか空いていなかった。エレベーターが5階で開くと、タバコの臭いが鼻につく。だが、廊下の奥にある501号室に着くまでに、すっかり臭いには慣れていた。ルームカードをかざして部屋に入ると、懐かしい感覚に包まれる。窓の外には見慣れた風景が広がる。それは、夏に1カ月以上滞在した601号室の真下の部屋だった。
また、治療を終えて、こうしてホテルの同じ眺めの部屋に泊まることになるとは、当時は想像だにしていなかった。ただ、明日のPETの結果次第では、またガン治療が再開することになるかもしれない。
だが、かつて東大病院のカフェテリアから眺めていた外の風景とは、明らかに見え方が違う。
もう、できることはやりきった。これから、たとえガンが再発したとしても、後悔することはない。自分が決めた治療を受け、やりきった充実感がある。
翌17日、これまでとは違う治療室に向かう。放射能の入った薬剤を注射され、そのままソファベッドに1時間、横になって休む。こうしているうちに薬剤がガンの周囲に集まることで、腫瘍の場所を特定できる。だが、筋肉を動かしてしまうと、そこにも薬剤が反応してしまう。そのため、患者たちはソファが並んだ部屋で休む。
「セレブのガン検査」
ある患者がそう表現したことがあった。PETをやれば、全身のガンが検知できるので、金持ちが自費で頻繁にこの検査を受けるという。だが、がんセンターでは、そんな様子は感じない。みな、ガンを経験して、原発や再発の恐怖を感じながら検査を受けている。
休憩後にCT台に乗って全身の画像撮影を受けて、帰路につく。
思っていたほどの重い体の負担は感じなかった。あとは、残存ガンが疑われている場所が光らないことを祈るだけだ。
12月24日(木)
PET検査から1週間、結果を聞きがんセンターを訪れると、朝から入口が混乱していた。
受付機が故障してしまって、朝の混雑する時間帯に患者がロビーにあふれていた。しばらくして、職員が動員されて、手動での受付が始まった。私は幸い、この日は早くに駅前のホテルを出てきたので、すぐに受付が終わった。
ロビーのドトールで軽い朝食をとりながら、長い列をぼんやり眺めていた。
すると、呼出機が鳴る。内科の小島先生の診察室に向かって歩き出す。
ノックして入るなり、小島先生がいつものように落ちついた表情で座っていた。
「特に問題はないですね」
残存ガンを疑われていた場所も光っていない。
「今の状態はどう考えればいいんでしょうか?」
「ほぼガンは消えているんじゃないかな」
PET・CTでは体全体を見ることもあり、光っている場所は見当たらない。
ほっとしていると、小島先生はこう続けた。
「でも、CTの方がよく映るので、次の検査は2月にやりましょう」
これからも、CTと内視鏡による3カ月ごとの定期検査が続いていく。それでも、PET検査をクリアした安心感があった。
ロビーを通り過ぎるとき、すでに朝の混乱は収まっていた。静かなロビーを通り過ぎながら、小さく拳を握った。
メリークリスマス。