BIGの終焉

カジノ国家の胎動

  (文 金田 信一郎)

「ルーレットがどう回転し、どこで止まるのか、それを知るのは非常に難しいので、正しい決定を下す努力が徐々に無意味に思えてくる。赤か黒への賭けも同じように知り得ない結果となる。つまり、不確実性の増大が、我々を無意識のうちに賭博常習者にしているのだ」(スーザン・ストレンジ『カジノ資本主義』)

 

事件は、大きな舞台装置が動き出したことを予感させる。

2019年12月25日、東京地検特捜部は、元内閣府副大臣でIR(統合型リゾート)担当だった自民党の衆院議員、秋元司を収賄容疑で逮捕した。IR参入を狙っていた中国企業から370万円相当の賄賂を受け取ったとされる。

異例の逮捕劇となった。現職の国会議員が収賄容疑で逮捕されるのは、2002年の鈴木宗男以来のことで、17年ぶりとなる。しかも、まだIRは予定地すら決まっていない。

そこに、IRという事業の特異な性質がある。

IRとはカジノやホテル、会議場、商業施設、レストラン、エンターテイメント設備などの集合体を指す。だが、あくまでも巨大な施設群の中核は「カジノ」というギャンブル施設であり、売り上げのほとんどを稼ぎ出す。

これまで、ルーレットやカードといったゲームで金銭を賭けるカジノは、日本では「賭博」に当たるとして刑法で禁じられてきた。

そのカジノを実現させるため、2010年に超党派の「国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連)」が発足する。逮捕された秋元が所属し、首相の安倍晋三も最高顧問に就いていた時期があった。

「成長戦略の目玉」

首相の安倍はIRをそう位置づけている。金融緩和に始まったアベノミクスは、財政出動までは打ち出したものの、肝心な「3本目の矢」となる成長戦略が出てこない。そこに、安倍はカジノを打ち込もうとしている。

2013年、「カジノ解禁法」が国会に提出されたが、一度は廃案になった。それでも、2016年に臨時国会で再提出される。その時、衆院内閣委員会の委員長だった秋元は、その権限を行使して強硬に法案を通す。反対意見が続く中、審議を2日計6時間で打ち切った。

「討論は終局しました。これより採決に入ります」

そしてカジノ解禁法が成立、翌2017年8月、その功績からか、秋元はIR担当の内閣府副大臣に就任する。

その就任が固まった瞬間から、中国企業の接待攻勢が始まる。講演料が50万円から200万円に引き上げられ、翌月には中国企業から300万円を議員会館で渡されていた。家族を伴った北海道へのスキー旅行の費用も「賄賂」と見られている。中国渡航の際には、中国企業がプライベートジェットを用意した。

国がカジノの3カ所を選定するのは、2021年夏以降になる。カジノの開業は2020年代半ばとされる。それまでに、賭博場の利権を巡って、水面下の駆け引きが激しさを増す。

誘致を計画する自治体は、3つの座を競い合う。勝ち抜くために、自治体は実力のあるカジノ運営企業と組むことになる。すでにラスベガスやアジアで巨大カジノを運営している米カジノ大手などに頼るしかない。米国のラスベガス・サンズやMGMリゾーツ・インターナショナル、ウィン・リゾーツ、香港のメルコリゾーツ&エンターテイメントなど海外のカジノ大手が日本進出を狙って、1兆円にも上る資金を投じる構えを見せる。

すでに米カジノ大手は、日本のカジノ推進派議員に、パーティー券を購入するなどの「資金提供」を始めていると報じられている。これから本格化するカジノ計画に向けて、巨額のマネーが飛び交う舞台装置が動き出す。

だが、カジノが本当に「成長の柱」になるのか。

 

地域が壊れる

 

「地域再興」「インバウンドの増加」。安倍政権と与党は、カジノ解禁の効果をそう喧伝けんでんしてきた。

だが、IR誘致が検討された北海道から沖縄までの多くの自治体で、賛否が割れて、計画が大きく揺れてきた現実がある。

そこには、住民の根深い不安が横たわっている。ギャンブル依存症や治安悪化、マネーロンダリングなど多くの問題が指摘される。

だが、本質的な問題は、地域経済に壊滅的なダメージを与えかねないことにある。

これまで、日本で賭博は、競馬などの公営ギャンブルだけが合法とされた。自治体や公共機関が、その収益を公共事業に使うことを前提としてきたからだ。

そして、公営で事業が成り立つ背景には、「胴元が必ず儲かる」というギャンブルの特性がある。

カジノの収益とは、「客の損失額」にほかならない。日本のカジノ構想では、利益の3割が国や自治体に納付されるが、残り7割はカジノ運営会社など民間に流れていく。

安倍政権は「海外富裕層を呼び込む」と言うが、自治体が描くカジノ構想では、客の7〜8割は日本人と想定している。海外カジノ大手が日本進出に躍起になる狙いは、日本人の個人金融資産1800兆円に他ならない。特に、カネと時間に余裕がある高齢者がターゲットになる。

海外カジノ大手は、長年培ったノウハウを持つ。ホテルに入った瞬間からカジノ設備が広がる。ビールなどのアルコール飲料が無料で提供され、近くにはビュッフェや各国高級料理店が並び、飲食が安価で提供される。巨大な会議場で国際イベントが開かれ、一流のエンターテイナーがショーを繰り広げる。

カジノが強烈な収益を上げるので、宿泊や飲食、娯楽サービスは安価で提供して、集客につなげる。客を長期間滞在させれば、それだけカネが落ちていく。海外カジノ大手では、コンプと呼ばれるポイント制度を導入して、顧客の掛け金や滞在時間に応じて、様々なサービスを提供する。無料の飲食や部屋のグレードアップ、エンターテイメントへの招待——。その戦術とノウハウで、海外カジノ大手はしのぎを削ってきた。

それは、究極の囲い込み戦略とも言える。

だから、カジノを中核とするIR施設の進出は、地元の人の流れを大きく変えかねない。

 

借金でギャンブル

 

ラスベガスがカジノを中心に発展した要因は、砂漠の中で周囲に商業施設がほとんど存在しなかったことにある。

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