がんセンターに到着すると、いつものように採血をして、内科のK医師の診察室に入る。
「今日はオプジーボですね」
「はい」
「で、次回の治療までの間にCTを撮ってもらいます。で、CTの結果が出たら、外科と放射線の先生のお話を聞いてみたいということでしね。次回の治療日にやりますか?」
「ぜひ、お願いします」
そうだ。CTの結果によっては、今ある4つの腫瘍を切除したり、放射線で消しにいく治療が可能になるかもしれない。ただ、見えているガンを直接、消しに行く治療をする「局所治療」が可能だったとしても、積極的に局所治療をやった方がいいのか、そこは微妙な判断になる。治療によっては体力を落とし、別の再発ガンを招く危険もある。
「では、その日に診察を入れておきますね」
「ありがとうございます」
それにしても、外科や放射線科が忙しい中、アポを入れて対応するということは、まったく脈がないわけではないのだろう。
「金田さん、その日はちょっと時間が長くなります。そうした診察が終わってから、抗がん剤の治療を始めますから。その日は、まずは私から採血結果が出たら話をして、そのあと、外科の先生、放射線の先生という順番になるのかなと思います」
「わかりました」
治療日程のメモを取り終えると、ストレートに聞いてみる。
「要するに、局所治療という可能性が出てきた、と考えていいんでしょうか」
「まあ、これは外科の先生がどういうふうに判断されるかですね。もう一回PET(CT)を撮ってみましょう、という話になるかもしれません。大きいの(腫瘍)がそのままで、ほかの3つが小さくなっていて、その1個だけが光るのかどうか。もしくは、他に光るものがないかどうか」
なるほど、もっと精密なPET-CTを撮影して、本当に今の4つのガンだけで収まっているのか、手術などの局所治療をするには見極めておきたいわけだ。
「先生、その一番大きいヤツがPETで光らないことって、あり得るんですか?」
すでに通常のCTでも光っている(ガンだと認識できる)。
「ありえります。すごくおとなしくしている」
これには、少し驚いた。
「(PETで)光っていたり光っていなかったり、いろいろある?ガン腫瘍は赤く光るんですよね」
「そうですね。ただ、画像は2つあって、色付けしているバージョンと、色のついてないバージョンとある。色がついてないバージョンもあるんで」
そうなのか。つまり、色付けしていないものを見ると、ガンではない、あるいはガンであるがおとなしい、という判断ができるのか……。
「先生、私のガンって、痛みは背中に出てくるんですか?」
「もし、この場所で大きくなったとした時に、背中に痛みが出る人が多いです。ですが、両方あります。ただ、この段階で痛みを感じる方は、あまりいないですね」
「で、まだガンは4つ、あるわけですよね?」
「うん」
「放射線治療になると、4つすべて当てることになる?」
「そうですね。1回、(大きい腫瘍)1つだけ当ててしまうと、ほかの3つのどれかが大きくなってきたときに、近すぎて当てられない。やるなら、まとめて当てることになります。おとなしく見えるものも含めて、念のため。あと、広い範囲になるので、腸にも当たる。まあ、(放射線の)先生はそのへんも考えてくれると思いますけどね」
「その場合、陽子線の方が、周囲への影響が少ないからいいという可能性もありうる?」
通常の放射線(X線)に比べて、陽子線はピンポイントで腫瘍だけに照射される。
「ありうると思います」
なるほど。やはり、最新の治療の方が現状の治療には合っているかもしれない。ちなみに、がんセンター東病院には、日本で最初に陽子線治療を始めた実績がある。今では陽子線治療ができる病院は全国に19カ所ある。
それにしても、やはり、すべての腫瘍を治療するわけだ。
「外科の場合でも、4つとる、と」
「おそらく4つとる。(小さな)3個のうち、また1個大きくなったときに取るのが大変なんで」
それはそうだ。何度も手術を繰り返すのは体に負担が大きい。
「周囲のリンパ節も取っておく?」
「そこは外科の先生の判断ですね。系統的に取れるものはとってくる」
「まあ、2週間後ですね。で、CTの結果によっては、オプジーボ+ヤーボイを継続する可能性もある?」
「ありえます。仮定ですけど。もう少し続けて様子を見るという選択肢もあると思いますけどね。うん」
「だけど、縮小効果は見えにくくなってきている」
「うーん。一番良いシナリオはこれで見えなくなってしまう。残り1個も見えなくなっちゃう」
なるほど、確かに最良なシナリオではある。だが、ここであまり楽観視したくない。そもそも、オプジーボとヤーボイが効き続ける保証はない。
「それは、さすがになさそうでは……」
さすがに、K医師もそれ以上は言葉を続けなかった。
「でも、3つは小さくなっているんですよね。大きな1個まで見えなくなると、やめてもいいんですか?」
「そこは定まってない。たとえば、4つとも小さくなった時、いつまで続けるのかという話だと思うんですけど。1個がおとなしくなった時、いつまで続けるのか。ま、今は続けてますが」
そうだ。私も、たとえ最後の1個が見えなくなっても、それはCTに映らないだけのことだと思っている。まだ微少の腫瘍として残っている可能性を考えるべきだろう。
「まあ、私も副作用をほとんど感じないんで、続けていくのがいいかな、とは思っています」
K医師はうなずいて、イスを回してこちらを向く。
「じゃあ、今日は抗がん剤をやりましょう。で、また再来週に」
「はい」
そう言って、立ち上がって礼をする。
うむ。再来週が重要になる。そこで、かなり多くのことが話し合われる。主治医K医師をはじめ、外科のF医師、そして放射線科の医師(これは、いったい誰になるのだろうか?)と「今後」について話し合う。
この再発がん治療の分岐点がやってくる。
すべてはCT検査で腫瘍が増大しているかどうかにかかっている。
今から思い悩んでも仕方ない。
ただ、考えておくべきことは多い。
外科手術か、放射線治療か、抗がん剤の継続か……。
抗がん剤も、効いていなければ別の種類に変更する必要がある。
そして、すべては「腫瘍がどうなっているか」にかかっている。
病状・治療マトリクスのような選択チャートを頭に描いておこう──。
それを、次回診察を迎えるまでに整理して、覚悟を決めて臨まねばならない。