再発の行方(27)

腫瘍マーカー上昇 (文:金田 信一郎)

朝7時半、がんセンターにバスで到着する。

すでに、エントランスホールはガン患者でごった返している。おそらく、多くの患者は自家用車で来ている。

私は運転をしなくなって久しい。なので、早朝、寝起きの状態で高速道路を運転して、三鷹から柏まで来る自信はない。

で、公共交通機関で乗り継いで来ると、2時間以上かかる。

それも体にこたえる。

なので、前日からがんセンター近くのホテルに宿泊する。

考えてみれば、当然のことだ。朝7時半から、血液検査に始まってCT、内視鏡と検査が続く。そのため、前日に夕食を済ますと、あとは水しか飲めない。

検査が早朝に終わればいい。だが、内視鏡検査はたいてい昼近くになる。終わっても1時間はベッドに横たわり、麻酔を醒まさなければならない。食事がとれるのが午後2時になることもある。

この厚さの中、栄養をとらずに20時間近く過ごせば、それこそ倒れかねない。

というわけで、本日も午前7時にホテルをチェックアウトして、駅前からバスに乗り、5分ほどでがんセンターに到着した。

血液検査を済ませ、エントランスホールのドトールで、サンドイッチとコーヒーの軽食をとる。今日はCTや内視鏡の検査がないため、あとはK医師に血液検査の結果を聞き、抗がん剤を打つだけだ。

血液検査の結果が出るまで1時間近くかかる。その間、ドトールで軽い朝食をとりながら、治療に関して考える。

だが、この「空き時間」は、病院も把握している。

で、2週間前は、こうしてドトールで朝食をとっていると突然、呼出機が鳴って、見知らぬ医師に呼び出された。

呼出機で指定された2階の場所に行くと、女性のS医師が待っていた。

「フラットアイアンヘルス社とB医師との研究に血液データを提供してほしいんですが、よろしいでしょうか?」

まあ、断る理由もない。

書類に署名を求められる。

こうしたケースはままある。国立がん研究センターは、名称に「研究」とあるわけだから、そこで治療を受けている以上、協力するのが筋である。

血液データの提供なので、身体的負担もない。個人データが漏れて困ることもないだろう。

その後、フラットアイアンヘルス社を調べてみると、製薬の世界企業ロシュの関係会社だった。そして、「S医師」と書いたが、調べてみても医師免許を取ったという経歴は見つけられなかった。もしかしたら、私が勝手に医師だと勘違いしただけかもしれない。

 

で、この日は、呼び出しもなく、診察の時間を迎えた。

K医師の診察室に入る。

「特にお変わりはないですか?」

「はい」

そう言うと、おもむろにK医師がパルスオキシメーターを差し出す。コロナ禍で一般的にも知られるようになった医療機器だ。皮膚を通して動脈血のSpO2(機能的酸素飽和度)を測定する。酸素が体内に取り入れられているかどうかが分かる。97%以上だと良好とされ、90%以下では呼吸不全の可能性が疑われる。

私もこれまで97%以上を示してきた。

だが、この時、95%と表示された。

<あれ、いつもより低いな>

K医師がパルスオキシメーターを指から外して、確認する。

「いいですね」

そう言って、パソコンに向かう。

えっ、いいのか?

私の心はまだ揺れていた。

95%で大丈夫か……。

だが、K医師は気にする様子もなく、書類を差し出す。

「これが血液ですね」

血液検査の結果の書類が机に置かれた。

それを見て、また驚いた。

食道がんの腫瘍マーカーとされるSCCの値が4.2で、正常値の上限、2.5を大きく上回っている。

「SCC、高いですね」

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