午前10時、国立がんセンターの内科、K医師の診察室に入った。
「今日はお体、いかがですか?」
K医師のいつもの問いかけで診察が始まる。
「暑いですね。それで、怠いかもしれません」
そう言って笑った。
「そうですよね。暑いですもんね」
うむ。体調を聞かれても、とりたてて痛みなどはないので、なんとなくの怠さぐらいである。猛暑なので当然なのかもしれない。
「まあ、特に副作用のようなものは感じていません」
そう言うと、K医師が朝に行った血液検査の結果の紙を出す。
「血液、問題ないですね。なので、今日、抗がん剤をやりましょう」
「はい」
これで、無事に治療が受けられる。
で、気になっていたガンの状況を聞く。
「先生、前回のCTなんですけど、(専門家による)読影の結果は出てきているのでしょうか?」
K医師はパソコンを操作する。
「出てますね。『異常なし、小さくなっています』ということです。そのほかの指摘もなさそうですね」
これまで見つかった4つの再発ガン以外には、新たな所見はないということだ。
少しほっとして、最大の懸念事項を聞く。
「一番、大きい腫瘍は、やっぱり縮小していなかった?」
「ぱっと見た感じ、そうですね。そこは指摘はないですけど、全体を通して縮小しているという判断かな、と」
「なるほど……」
つまり、明らかに小さくなっているわけではないが、4つの再発ガンは基本、同じ原発ガンの由来と考えられるので、最大の2センチのガンも含めて、全体として縮小傾向にあるということだろう。まあ、大きくなっていないだけでも「よし」としなければならない。
K医師が続けた。
「で、あと、遺伝子パネル検査の結果が出てきました」
2カ月前に依頼したものだ。アメリカで解析して結果が戻ってくるので、相当な期間を要すると聞いていた。もう2カ月ほど経ったわけだ。
「結果、どうでしたか?」