オプヂーボの治療を受けるために、午前8時、がんセンターに到着する。
血液検査を済ませてから、ドトールで軽食を取り、そのまま内科医K先生の診察を待っていた。
呼出機が鳴る。
いつも通りに診察室に向かい、ドアをノックした。
「どうぞ」
ドアの向こうからK先生の声が聞こえ、礼をしながら診察室に入る。いつも通りK先生が座っているが、その奥に白衣の女性がいる。
「今日は研修に来ている先生にも同席してもらいます。よろしいですか?」
「もちろん」
そう言って、女性医師に軽く会釈して、イスに座った。
K先生から切り出す。
「今日は、あまりいいお話じゃなくて」
その言葉を聞いた瞬間、深刻な話が始まることを覚悟した。がんセンターでの「悪い話」は、かなり症状が悪化していることを意味する。逆に、それ以外で、そんな話の始まり方は、ここではありえない。
「先週のCTで気になる所がありまして」
そう言ってK先生はパソコンに画像を映し出す。
「こちらが先週の画像で、隣がオプヂーボを始める前ですけど」
そう言って、2つのCT画像を比較する。
「手術した下の方、肝臓の下あたりに、ちょっとモコモコっとした2センチぐらいのものがありまして、視認できるだけで4つ。可能性としては転移、再発をまず考えたい所なんですね」
しばし、頭が真っ白になった。
そして、これまでの経緯を思い返す。そうか、去年末に再発が出て、手術することになった時から、「再発が1個で終わることがあるのか」と疑念は抱いていた。
その悪い予想が当たった。
はやり再発は1個ではなかったのだ。
私は画面を見つめたままうなずく。
K先生は冷静な表情で続ける。
「で、PETを撮ってみたいと思うんです。今度、外科のF先生の診察があるので、その前に撮ってもらおうと思ってます」
なるほど。PET-CTで腫瘍が光れば、再発ガンで診断は確定するだろう。
それにしても、腫瘍の場所がかなり腹部の下にある。
「これ、食道のリンパ節になるんですか?」
「そうですね」
「昨年の手術で、周囲のリンパ節は取っていると聞きましたけど」
「そうですね、9個ぐらい取っているんですけど、その下の方になります」
やはり、かなり下に離れた場所なのだ。
「これは、数カ月前の再発の転移なんですか? それとも、5年前の食道ガンの転移なんですか?」
「考え方としては、5年前の食道ガンの転移となります。まあ、正確には分かりませんが」
そうすると、5年前の食道ガンで体全体に散ったガン細胞が、4年の潜伏期間を経て、今、体のあちこちで大きくなり始めているということになる。
「じゃあ、もっと転移が出てくる可能性がある?」
「そうですね」
しばし、沈黙が流れる。
で、これに対して、どう治療を考えるのか。K医師が見解を示す。