再発の行方(16)

オプヂーボ (文:金田 信一郎)

初めてのオプヂーボ治療を受けた。

これまでと流れが違うので、いくつか戸惑う点があった。

今日の治療の流れは、まず内科医のK先生の診察を午前9時30分に受けて、それから通院治療センターで、日帰りの抗がん剤を打つ。

 

5年前にやった殺細胞性抗がん剤(シスプラチン+5FU)は、こうはいかなかった。5日間ぐらい入院して、その間は打ちっぱなしで過ごす。24時間×5日間を打ち続けるのは、いろいろときついことがある。

抗がん剤の副作用はもちろん厳しい。食欲減退や吐き気、口内炎などが起きることがある。ただ、これらは薬などで抑えることもできる。それでも、免疫力が下がったり、聴覚障害や味覚障害など、少なからぬ副作用に悩まされる。

また、点滴スタンドが常に体とつながっているため、ベッドから移動することが意外と難しい。いちいち、点滴モーターの電源コードをコンセントから抜いて、スタンドに巻きつける。部屋を出てトイレに行ったり、診察を受けるために外来患者が往来する1階に行ったりするが、常に点滴スタンドを引きずっていかなければならない。

しかし、充電時間はそれほど長くない。途中で切れそうになり、病院の廊下でコンセントを探す事態になることもあった。

夜中、トイレに行くにも、真っ暗な4人部屋でコンセントを抜き差しする作業をしなければならない。結構やっかいである。つい、無精になってベッドから起き上がらなくなる。それが、筋肉の低下を招いて、退院してからも出歩かなくなり、負のスパイラルで体力が落ちていく。

 

そう考えれば、通院治療は悪くない。

そもそも、病院に来なければ治療を受けられない。適度に運動をすることになる。また、面倒なコンセントの抜き差しもない。

点滴を受けるのは、区切られた小さな個室空間なので、そこで本を読んだり、食事を取ったりと、自由に過ごすことができる。

 

だが、この日、初日ということもあって、どうも勝手が分からなかった。

 

まず、血液検査を受けなければならない。だが、内科医の診察が9時半のため、余裕を持って、8時過ぎに病院に着き、血液検査に向かった。ところが、血液検査は常に患者で溢れている。

30分ほどで血液検査が終わり、1階のドトールでアイスティーを飲みながら待った。予定よりも遅れて、10時頃に呼出機が鳴った。

K先生の診察室に入る。

「体調はどうですか?」

「特に変わったことはないです」

そう答えると、K先生は血液検査の結果を見る。

「血液も特に問題はなかったので、予定通りにオプヂーボをやりましょうか」という。

「お願いします」

そう言って、立ち上がる。

「金田さん、呼び出しが遅れましたが、血液検査の結果が出ていなかったからです。採血から1時間しないと結果が出ませんので」

あ、そういうことか。診察の1時間前に血液検査に行くのでは遅いわけだ。

「それで、7時30分から8時という早朝の血液検査枠があるんですね。そこは、予約はとれないんでしょうか?」

「うーん、そこは一杯ですね」

まあ、そうだろう。患者が考えることはだいたい同じだ。どうせなら、早く来て血液検査を終わらせておきたい。すでに、その枠を求める人が溢れている。そこは諦めるしかない。

次回から、もう少し朝早く病院に来なければならない。

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