再発の行方(15)

抗がん剤を止める (文:金田 信一郎)

国立がんセンター東病院へにくバスの中で、これから行う治療の最終決定を考えていた。

がんセンターで提示されている治療法と、セカンドオピニオンを受けたがん研有明病院の話を頭の中で反芻する。

これまで、私に示されている選択肢は3つだ。

 

① 5年前の治療と同じ、殺細胞性抗がん剤2剤(シスプラチン+5FU)を、入院して2クール受ける

② 今世紀に登場した免疫チェックポイント阻害剤(オプヂーボ)を1年間投与する

③ 経過観察(何も治療しない)

 

3つの選択肢は、がん研有明もがんセンター東病院も、どちらも同じだった。

だが、勧め方はそれぞれ微妙に違う。

がんセンターは①をまずやる方針でいて、③も「あり」だとしていた。そこに、私が①にプラスしてオプヂーボ(免疫チェックポイント阻害剤)を追加できないかと質問したことで、②の選択肢が浮上してきた。

セカンドオピニオンのがん研有明では、当初からこの3つが選択肢として掲げられ、「どれも選択肢になり得るが、確たるデータがない」として、優劣はまったくつけられなかった。

要するに、自分で選択するしかない状態となっている。

 

バスが病院のロータリーに到着すると、まずCTの検査に向かった。X線を使って体の断層画像を撮影する。

このCTで新たな再発ガンが見つかれば、①〜③の治療選択はいったんご破算になるだろう。現状、ガンがないことが、3つの選択肢の治療を進める前提条件である。

ドトールでアイスティーを飲みながら、内科のK先生の診察を待つ。

──CTで再発ガンが見つかったら、どうなるのか? 治療が白紙になるどころか、再発の場所によっては、延命を目指す緩和ケアに入るかもしれない。そういう結果を通告される覚悟も持って、診察に臨むべきだ。

考えたくはない。だが、最悪の事態を想定していないと、いざ、そう言われた時に頭が真っ白になる。

それが、この5年で学んだガン医療の対応術だ。

まず、CTで何もないことを願うだけだ。

 

呼出機が鳴り、K先生の診察室に入る。

K先生は開口一番、セカンドオピニオンの結果を聞いてきた。

「がん研はどうでしたか」

「はい。勉強になりました」

正直なところ、頭の整理が出来て、次の治療に進む腹が据わった。そのことをK先生に説明する。

「それまで、自分の中での自己問答みたいなものがあって、どうしていいのか堂々巡りでした。それがすっきりしました」

「それはよかったですね」

「はい。まあ、説明の内容は先生とおおむね同じでしたが、結論に至るアプローチや表現の仕方が違うので参考になりました。3つの選択肢のメリット、デメリットも見えてきたのでよかったです」

そう聞いたK先生は本題に入る。

「で、ちなみに、ご自身としてはどれを選ばれます?」

「まず、経過観察はないですね」

K先生はうなずいた。まあ、私の中でも考えていないし、おそらくK先生もあまり推奨していない様子であった。私が治療に積極的な患者だからかもしれない。

薬剤のどちらかを選択するしかない。

ここで、気になっていた今日のCTについて聞いた。

「今日のCTはどうでしたか?」

 K先生が画面を確認する。

「それは、僕が見た限りでは大丈夫です」

ほっとした。

「それがすごく心配だったので、よかったです。それがダメだと、いくら治療を考えても水泡だと思っていたので」

「詳しい結果は1週間後ですけどね」

まあ、気は抜けないが、今日、治療選択を決めることは変わりないようだ。私は考えていたことを口にする。

「治療をどっちにするかですが、CF(シスプラチン+5FU)は5年前に5クールやって、かなり効果はあったけれど、それでもガンが残って再発したわけですよね。なので、今回は違うやり方でいきたいと思ってます」

要するに、②のオプヂーボを選択するということだ。

K先生は無言で聞いていた。私が続ける。

「外科のF先生が家族に手術を説明する中で、『根治を目指す』という言葉があったので、そこに近づくには、違う薬を選んだ方がいいかな、と。」

K先生が頷く。特に反対意見はないということだろうか。

私はオプヂーボ治療についての疑問を聞いてみる。

「治療期間がかなり長くなるので、(オプヂーボの副作用で)その間に自分の状態がどう変わるのか、という不安はあります」

K先生が説明を始める。

「そうですね、基本は(オプヂーボを)2週間に1回打っていって、当初は週に1回来て頂いて、体調をチェックする形になりますね。併せてCTと内視鏡で再発のチェックをやっていく感じですね」

ここで、K先生が聞いてきた。

「ちなみにがん研のセカンドオピニオンでは、どれをやることを奨められました?」

「どれがいいか、ということはまったく言ってもらえませんでした。どれも、選択肢としては『あり』だと。患者の考え方によるので、私(医師)としてどれとは言えない、という感じでした」

「うん。そうですね」

「あと、経過観察について『選択肢の1つだ』と強調していました。『あまり考えてないようだが、4年で再発が1個なので、経過観察するのも選択肢としてはある』と言っていたのが印象的でした。まあ、それでも私は『経過観察はないな』と思いましたけど」

K先生は小さく頷く。

「私はそれを聞いていて、『そこまで経過観察を奨めるのであれば、ニボルマブ(オプヂーボ)でもいいのかな』と」

そこまで言って、少し不安になった。

「私の選択、危険ですかね」

「うーん、副作用次第ですかね」

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