再発の行方(11)

転移の有無 (文:金田 信一郎)

退院から1週間後、がんセンターにやってくる。今日は、手術後の経過を診るため、外科のF先生の診察室を訪れることになっている。

病院に到着すると、まず、レントゲンと血液検査を済ませる。

時間はちょうど正午になった。診察は午後1時なので、昼食を取ることにした。

久々に最上階9階にあるレストランに行く。

食券機には数人が並んでいた。列の後ろにつくと、あとから患者やその家族、看護師などがどんどんやってくる。ここでメニューを迷っている時間はない。タンメンのボタンを押す。食券を取って座席に向かう。

ここは「レストラン」とうたっているものの、「食堂」という表現の方が的確だろう。かつて新聞社に勤務していた時、本社ビルに簡素な社員食堂があった。広くて見晴らしはいいのだが、出てくる食事は味気ないし、深夜に行くと料理が固く冷え切っていた。

だが、このレストランは味がそこそこしっかりしている。何より、作りたてである。

最初にここに来たのは5年前の入院時のこと。同室だった患者に連れられてたってきた。点滴スタンドを引きずりながら、このレストランの窓際の席に座り、窓の外に広がる広大な公園を眺めながらタンメンを食べた。

その味が忘れられない。病院食の味は薄いが、このレストランはかなり濃い味付けになっている(と思っていた)。そのことが強く印象に残っている。

昼食時なので、席はかなり埋まっていた。それでも、窓側の席に座ることができた。

5年前と同じように、その席でタンメンを食べた。

あれ? 味が薄くなったのか? かつてのインパクトを感じない。あれは、入院中だから感じたことなのか。今は退院してから1週間ほど経つので、外食の味に慣れきっている。たまにコンビニで惣菜を買っても、味付けがかなり濃い。ここのタンメンが薄味に感じる。

日頃の食事が異常なのかもしれない。病院生活と日常生活には、大きな違いがある。どちらがいいとも言えない。食事は病院食の方が圧倒的にヘルシーだ。病院にいた方が、食の面では健康になるかもしれない。だが、運動量はケタ違いである。病院内では、いかに運動しようと努力しても限界がある。東大病院が患者用のトレーニング室を備え、しかもトレーナーが患者の運動を促していたことは、かなり先進的な取り組みだったと感じる。がんセンターをはじめ、他の大病院も導入してほしいところだ。

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