再発の行方(9)

幻覚と幻聴 (文:金田 信一郎)

手術後、2日目の夜がやってくる。昨夜は一睡もできなかった。さすがに今夜は眠りたい。

消灯の午後10時、点滴に睡眠剤を入れてもらう。手元にあるモルヒネのスイッチを押して、投与量を増やしていく。痛みが抜けていき、意識が朦朧もうろうとしてくる。

目をつむって眠りに落ちるのを待った。

だが、意識は薄れながらも、どうしても眠ることができない。

再びモルヒネのスイッチを押す。液体が針を通して血管に流れ込み、体が熱くなっていく。睡眠剤とモルヒネを打ち過ぎたかもしれない。息が苦しい。

ベッドの上で悶絶する。全身の毛穴から汗がしたたる。

その時、突然、まぶたの裏に映像が流れた。

まるで映画館で観るスクリーン映画のようだ。

闇夜に沈む荒廃した住宅街——。その建物の間を、歩く程度の速度で映像が流れていく。住宅からは微かな灯りが漏れている。だが、どの家も外壁がひどく損壊している。

おそらく戦後ドイツの風景である。

有料記事(月500円で全記事閲読可)

会員登録・ログインして定期購読を開始する

Page Top Photo by
http://www.flickr.com/photos/armyengineersnorfolk/4703000338/ by norfolkdistrict (modified by あやえも研究所)
is licensed under a Creative Commons license:
http://creativecommons.org/licenses/by/2.0/deed.en