入院日の午前9時、自宅前に迎えのタクシーが到着する。次男と二人でスーツケースを持って乗り込んだ。
東京・三鷹の自宅から千葉県柏市のがんセンター東病院まで、高速を使えば1時間で着く。入院時間は午前11時なので、1時間も前に到着することになる。だが、入院に遅刻するわけにはいかないので、余裕を見ての出発となった。
上さんは用があって、病院で集合することになっている。昼に予定されているF先生の手術説明には間に合うはずだ。
日曜の高速道路の下り線は空いていて、予想通り10時に病院に到着した。2万円を超える料金を払って、がんセンターの玄関に降り立つ。
病棟6階のナースステーションに到着する。
「入院予定の金田です」
そう看護師に告げると、外科のF先生がやってきた。
「では、説明を始めますか」
そう言って、ナースステーションの近くにある会議室に入ろうとする。
「すいません、妻がまだ到着してなくて……。病院内には着いているんで、もうすぐ上がってくるんですが」
そう言うと、先生は踵を返し、「では、のちほど」と言って引き揚げてしまう。
ほどなくして妻が姿を現すが、なんともタイミングが悪い。仕方なく、家族3人で会議室に入って、F先生が戻ってくるのを待つ。
10分後、F先生が足早に会議室に入ってくる。正面のイスに座ると、机に書類を出して説明を始める。
「だいたい聞いていらっしゃるとは思いますが、リンパ節の再発で、この腫瘍と周囲のリンパ節を取っていきます。また、胃にも食い込んでいるので、そこを少し削ることになります」
実は、妻に詳しい内容まで説明していない。初めて聞くことも多いはずだ。私は確認もかねてF先生に質問する。
「噴門は残るんですよね?」
「その予定です。ただ、手術は開けて見ないと分からない所もあります。胃の上部を切除する準備もしています」
その切除範囲を図解する。私は心の中で動揺する。その切除法になった場合、手術後、食事をとることが難しくなるのではないか。食べ物が食道に戻ってくる危険がある。
「先生、噴門は残す方向でお願いします」
「まあ、そうなると思います」
「噴門を切除する場合は、家族に確認してくれるんですよね」
手術中に方法が変更になる場合、付き添いの家族に説明して承認を取ることがある。
「そうですね。一度(手術を)中断して、説明することになります」