再発の行方(3)

文:金田 信一郎

およそ5年ぶりに食道外科のF先生の診察を受けた。

5年前、私は東大病院から逃げ出して、がんセンター東病院で彼のセカンドオピニオンを受けた。

その時、病状説明や治療方針を聞いて、感銘を受けたことを今でも鮮明に憶えている。

明確な説明──しかも、こちらが不安に思っていることを会話の途中で察知して、F先生の方から解説を始める。

決して楽観論を話すわけではないが、こちらが妙に安心する話術を持っている。

診察が終了したあと、付いてきた妻がこう感想を漏らした。

「1000人に1人もいるかどうかの医師」

妻は総合病院に勤務して、幾多の医師を見てきた経験がある。その妻が「こんな優秀な医師は見たことがない」と感嘆した。

彼は手術の腕も高いことが想像できた。まず、手術数が群を抜いている。年間に100件を優に超える。また、手術を受けた患者を集めて「勉強会」を開催している。自分の腕に自信がなければ、そんなことができるはずがない。患者から糾弾される危険があるからだ。

患者と真摯に向き合う姿勢が見て取れる。「理想の医師」に近い。実績だけでも十分に「名医」と言えるが、会った時のコミュニケーション能力が極めて高い。

私は、彼の人柄と仕事への取り組みに、かなり高い信頼をおいている。

 

そのF先生の診察室に、5年ぶりに入った。

「体調はどうですか」

「はい。特に変わりはないです」

彼がパソコンで私の病歴を見る。

「(治療から)4年経って(再発)というのは、あまり多いことではないんですけど」

そう言いながら、CTで撮影した患部の画像を見る。

「腹と胸の間、ここにポコっと(腫瘍が)見えている。時系列で4カ月ごとに見ると、このポコっとした所が目立ってきてます。胃の上の方、食道とつながる近くの場所ですね」

4カ月前のCTでは5㍉ほどの影があるだけだ。これぐらいの影はほかにもあるし、この段階ではガンとは断定できない。

だが、今では15㍉から20㍉ぐらいになっているだろうか。

胃の裏側にあるリンパ節が腫れて、胃を圧迫している。果たして、この状況は治療可能なのか? F先生の方を向いて聞いてみる。

「これがリンパ節での再発だったとして、どういう治療が可能なんでしょうか?」

私の質問に、F先生は冷静に答える。

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